当院は弘仁10年（819）に高野山を開創された弘法大師様を宗祖とし、その高野山金剛峯寺を総本山とする高野山真言宗の末寺です。
古くは「高見の毘沙門堂」、あるいは「南光坊」とも呼ばれ、近世には「高見のお大師さん」として多くの人々の祈りを集めておりました。人吉城の裏鬼門を結界する当地は神仏の加護が顕著であり、藍田村の北に位置する雨吹山に居を卜して護りを固め、後にその麓、高見の地を選んで「高見山」の山号を拝しています。
開創の詳細はわかりませんが、江戸の中期（文化年間）の「相良家文書」によれば、江戸への参勤交代の出発に際しては、お城の持仏間において南光坊の「ウスサマ祈祷」が行われ、その後、青井阿蘇神社にて一同集まって出立したことが記されています。その頃を偲ぶものとして安永年間（1770年頃）の石灯篭や文政年間（1820年頃）の打鐘が残されています。しかしながらいつしか無住となり、民衆の信仰によってわずかに法灯を繋ぐばかりになったようです。後に、法縁極まった善貞尼により中興されることとなります。
善貞尼は明治のはじめ球磨郡湯前に生を受け、結婚ののち多くの子宝にも恵まれました。しかし戦争や病のなかに夫や子供たちを全て喪い、その中で仏門に帰依し衆生のために身を尽くすことを決意しました。そこで高野山へとのぼり、肥後国所縁坊である別格本山総持院にて出家得度しました。お大師様の弟子として密門に身を投じ、護持していた毘沙門堂の法灯を護るべく当院を中興し、檀信徒の教化救済に励みました。まさに檀信徒と共に歩み、お大師様の信仰を身をもって示した人生でした。
本尊は毘沙門天。別名を多聞天とも言い、七福神にも数えられるありがたい仏様です。もともとはインドの伝記では北方を守護する神で、四天王の随一とされています。その毘沙門天が仏教の中にも迎え入れられ、日本でも聖徳太子や上杉謙信など、多くの人々より篤く信仰されました。
当院の毘沙門天は、非常に珍しい左利きの毘沙門天です。両手の持ち物を経軌とは反対に持つのが特徴です。いずれにしても捧げる宝塔よりは無量の福寿財宝を与え、宝棒をして如何なる罪障をも打ち砕いて、我々を護っていただけます。
御真言（毘沙門天） おんべい しらまんだや そわか
合掌
